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ヒートアップ 心も体も支えてやる

last update Last Updated: 2025-05-21 10:47:42

 第9話 ヒートアップ

 各々が座りたい場所に座って出されたお茶を飲んでいた。少し落ち着いた所で話を切り出そうとする薫は、とりあえず桐也から話を聞く事にした。伊月と夏樹はまだいがみ合っていて話を聞ける状態ではなかったからだった。

「どうして伊月の弟が桐也くんの所にいるのか話してくれないかな?」

「ああ……」

 どこからどこまで話したらいいのか模索していると、夏樹が桐也を守るように切り出した。

「桐ちゃんは行き倒れになってた所を助けてくれたんだ」

「バイト終わりに雨に打たれていてね。可哀想だったから、つい拾っちゃって。そしたら住み着いた」

 行き倒れになっていたと聞いて伊月を見た。探していたみたいだがどうして警察に言わなかったのかとクビを傾げた。桐也もそうだ。親御さんに伝える選択肢もあったはずなのに、その考えは浮かばなかったのだろうか。

 薫1人で考えている。他の3人は流れに身を任しているような感じだった。

「本当は警察に引き渡そうとしたんだけど、夏樹が嫌がってね。帰るのも嫌、家事をするから置いてくれと言われたんだよ。そしたら2人の親父さんから連絡があって、ここに来たって事」

「そうか、僕は何も知らなかった。ただ親父の関係者として天田を紹介されたけど、全ては夏樹が原因だったんだな……」

 裏と表が繋がっていく。今まで不透明に思えていた事が少しずつ形を整えられていく。まだ完璧ではないし、全てが分かった訳じゃないけど、別に2人が想いあっている事は無さそうだと安心した。

 疑っていた訳ではないけど2人が見えない所で秘密を共有していたから、見えない絆があるんじゃないかと深堀していた自分が、どこまでも幼稚で嫉妬深いと初めて知った。伊月が現れてから、自分がどんどん変わっていっている実感を抱きつつ、話を聞いていた。

「悪いかよ、伊月がいるとこで住むとか有り得ないんだよ」

「なんだと?」

 兄弟喧嘩の始まりのゴングが鳴る。2人は今まで我慢していた事を吐き出して相手に叩きつけていく。思う存分言いたい事を言えば、スッキリもするし、擦り合わす事も出来ると信じて決めつけていた。

 そんな2人の頭を小突くと桐也は呆れたような顔で言った。

「ヒートアップしてんじゃねぇか」

 指摘されて初めてその事に気づいた薫達は苦笑いをしながら桐也の言葉に冷静さを取り戻した。よく空気が読めないと言われた事を思い出して、自分の判断と行動が違った方に向かっていたのに言われて気づく結果となった。

 第10話 心も体も支えてやる

 ゆっくりと話を進めていくと大体把握は出来た。伊月が裏稼業に関わっているなんて気づかなかった。夏樹が起こした喧嘩が原因で伊月が自分の人生を歩めない事も。本来は全てを継ぐのは伊月のはずだが、養子の彼では立場上役不足だった。夏樹が成人するまで耐えるつもりだったのだろう。

 全てを話す事になってしまった状況に頭を抱えながら夏樹との間に隠れている確執を見てしまった薫は伊月にどんな言葉をかければいいのか分からない。

「薫にだけは知られたくなかった」

 義理の弟を守るために影武者のような事をしている事にも驚いたが、それ以上に彼を抱きしめて安心してもらいたいと思っている。

 悲しそうな瞳が揺れている。そんな伊月を見ていると胸がチクリとする。いてもたってもいられない気持ちが先走り、伊月を抱きしめる。

「大丈夫だよ、俺がいるから」

 そんな言葉しかかけれない。変に作っても偽物に感じるだろう。だからこそ、自分の素直な気持ちを口にした。少しでも気持ちが和らげればいいのだが、それは本人にしか分からない。

「……気を使わせちゃったね、ありがとう」

「いいんだよ」

 ゆっくりと手を背中に回すと受け入れるように伊月も薫に応えていく。その姿は美しくて映画を見ているような華やかさがあった。そんな2人を邪魔するのは気が引けたが夏樹は頭を下げた。

「そこまで追い込んでいたとは思わなかった。ごめん」

 数ヶ月しか変わらない同い年の2人は色んな事で対立しただろう。お互いがお互いの気持ちを組み止めれないぐらい複雑で思春期には荷が重い。だからこそ支えが必要なのかもしれない。薫は伊月を支え、桐也は夏樹を支える。桐也は抱きしめはしなかったが、震える夏樹の背中をゆっくりと撫でた。

「2人は悪くないよ。これからやり直せばいい」

「だけど僕は夏樹を守ると決めたんだ。だから夏樹の代わりは続けようと考えてる」

「それでいいの?」

 夏樹は伊月に聞くと、伊月は何かが吹っ切れたように優しく微笑む。

「薫の傍にいられるし、結構気に入ってる」

 そう言うと潤んだ瞳で薫を見つめると、優しくキスをする。今までよりずっと優しく、甘い。そっと触れた唇はじっとりと熱を持ち、心臓の音が早くなっていった。

「落ち着いた?」

「うん、ありがとう」

「なら、よかった」

 2人は笑い合いながら頬を引っ付け擦り寄せている。幸せそうな薫を見ていると、桐也は1人置いてけぼりされていく孤独を抱えながら、覚悟を決めた。

「俺がいるよ」

「……夏樹」

「今は辛いだろうけど、待ってるからいつか俺を見て欲しい」

 夏樹は今まで自分の本当の気持ちを出さなかった。いつもなら茶化すような物言いだが、今回は今までとは違う。それだけ本気なのだろう。1人は気持ちを受け入れ、愛し合う覚悟を持ち、もう1人は彼の幸せの為に退く事を決めた瞬間だった。

 ■□■□■□■□

 やっと2人きりになれた薫と伊月はゆっくりとベッドの上で寄り添っている。何処か落ち着く場所に行きたかった伊月は別荘の鍵を持ち出し、電車旅で疲れた心を癒そうとした。迷いながらたどり着いたのが2人にとって安らぎの場所だった。

「疲れたぁ……向き合うって精神力使うね」

「頑張ったね。ご褒美欲しい?」

「……くすくす」

「なんだか大人になったね。たくましくてカッコイイよ」

 上手くはぐらかしたつもりだった。どうしても言葉にするのが恥ずかしくて、つい逃げてしまう。真っ直ぐ見つめてくる薫の視線が痛い。真剣で熱くてこちらが溶けてしまいそうだった。

「顔真っ赤だよ。可愛い」

「可愛いのは薫だよ、僕は……」

「本当にそう? こんなになってるのに」

 伊月のズボンを脱がすとパンツに染みが出来ている。一緒にいるだけで興奮したのかパンパンに膨れて、苦しそうだ。

「今、楽にしてあげるね」

 小悪魔のように笑うと伊月のを口に含み、ゆっくりと舐めていく。最初は右手でゆっくりとシゴき先端にキスをする。

「あっ」

 可愛い声をあげるとそれが合図になる。先端をちゅうちゅうと吸うと愛液が溢れ、薫の口を汚していく。

「可愛すぎだろ……はぁ、ヤバい」

「んぁっ。そこ、やぁ……」

「ここが気持ちいいんだな。俺のも気持ちよくして?」

 コクンと頷いたのを確認するとお互いが舐めれるようにシックスナインの形になっていった。

「……寝かさないから」

 薫はそう言うと快楽の海に溺れていく。伊月を引き連れて──

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